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第三回 うつわの話

『手で味わう』


手の感触、手に持つ感覚、手測り、手秤・・・
手のひらサイズ、手に持つうつわの暗黙の規格・・・
持つ手の感触、手で味わう・・・
自分使いのお箸とお茶碗、
湯呑み、マグカップ、グラス・・・

日本の家庭の食卓のかたちは、わずか百年足らずの間に、箱膳が卓袱台(ちゃぶだい)になり、卓袱台からダイニング・テーブルへと変わりました。
(日本人の家庭の食卓は、平安時代から折敷が使われて江戸時代に折敷に足をつけたお膳に変わりましたが、長い間一人用の食卓でした。
家族で向き合う食卓のかたちは明治の中ごろに卓袱台が使われ始めてから普及したものです。)

今や、ダイニングや食器棚には、和洋中華、様々な形や大きさ、多様な素材の食器や調理器具があふれています。

 しかし、そうした中でも「手に持つ食器」の作法は変わらずに、手に持つ食器の大きさなどもほぼ昔のままです。また、ご飯茶碗や湯呑みの素材は陶磁器、味噌汁など汁物は漆の椀、も変わりません(地域によっては漆の飯椀、磁器の汁椀を使っていますし、箸の素材や規格の好みにも地域性はあります)。
 さらに、「自分用のお箸とお茶碗」もしっかりと残っています。

これはたぶん、日本人が今も持ち続ける繊細な手の感覚、「手で味わう」、「手のひらサイズ」からではないでしょうか。
自分使いの箸と茶碗、湯呑、さらに、マグカップやグラス。いつもの「うつわ」がないと妙に落ち着かない。日々使う「うつわ」への愛着の深さとなっています。

この「食器を手に持つ」、「自分用のお箸とお茶碗」と言う日本人の食卓の作法は、「道具に、握り・グリップをつけない」、「和室が無い住居でも玄関で靴を脱いで生活する」、「浴槽がバスタブに代わっても浴槽では体を洗わない」などと共通する日本人の特質で、繊細で美的な手・肌の感覚(測る、味わう、見る、診るなど)と、それを大切にする細やかな美意識によるものではないでしょうか。

日本人の食事は、目で鑑賞して、次に香りを楽しみ、そして、口に運ぶ前にさらに、取り分け出されたうつわを手に持って、盛り付けを実感し、「温かい飲み物や食べ物がうつわを通して伝わるやさしく豊かな満足」、「煮えたぎった汁を盛った熱々の待ち遠しさ」、「冷たく冷やされて指先に伝わる清涼感」などを手の掌と指で先ず味わいます。

このように日本人の食に対する繊細な美意識は、手に持つ食器の材質や規格にもこだわってきました。そして、細やかな手の感覚を最も発揮できて見た目も美しい道具立てとして、食器に、だれが決めたわけでもない暗黙の規格をつくり上げています。

汁椀の口径は男物四寸に対して女物は少し小さく三寸八分でおおよそ十二センチ余り、高さは親指と中指で無理なく持てるサイズ。

 

これは椀を持つ手が自然で優しく見える大きさのようです。もっとも日本人の体格はこの百年で飛躍的に伸びているので、現代女性が持つうつわは男物の規格がぴったりするのかもしれませんが。
また、湯呑は、ビールやワインの瓶の直径と同じ、口径八センチ前後になっています。

 しかし、日本人の食卓のスタイルが大きく変わる中で、それに合わせて和食器も変化を求められています。
折敷やお膳、卓袱台の上では上品で安定感があり持ちやすい高台(こうだい)の高さや大きさは、ダイニング・テーブルの上に置くと意外なほど不安定に感じさせてしまい、機能性やデザイン面から様々な工夫が凝らされています。

また、もはや和洋中華の範疇にとどまらない盛り付ける料理のバリエーションの広がりや、ダイニング・テーブルを抜け出てくつろぐ和のテーブル、かしこまった気分でいただくお膳、1人静かにたしなむ折敷など多用な食卓のかたちに対して、繊細で美的な手の感覚とそれを大切にする細やかな美意識を持つ日本人は、食事の作法も箸を基本としながら、ナイフとフォークとスプーン、箸とスプーン、手など、様々な料理とその食卓の形に合わせて器用に使い分けます。

この様に、食器が登場する場面が多様になる中では、料理ごとに用途が決められた器よりも、様々な料理・飲み物や食卓の形、場面に合わせられる器が求められます。

日本の食卓を彩る「和のうつわ」は、日本人の食卓のかたちの変貌を受けて、これまでにないスピードで進化し始めています。
そして、この進化は、日本人がこだわる「道具の美学」の中で、無数に作り出される食器の淘汰として、そう遠くない将来、きっと洗練された形-様式を作り上げているはずです。
 

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